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zoom RSS 愛という名の矢印

<<   作成日時 : 2014/05/11 09:12   >>

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ひと月前に観た映画が、ずっとひっかかっている。

「愛、アムール」

名匠ハネケ監督が描きだす、至高の愛の物語と形容されている。

満ち足りた人生を歩んできた音楽家夫婦の暮らしぶりが、

妻の発作によって献身的(?)に支える夫の営みにかわっていく。

誰しもが迎える「老」と「死」。


その淵に立つふたりの姿(現実)をつぶさに丹念に追う。

愛?と問いかけながら、

薄皮をまとった人間の何を描こうとしたのだろうか。







二度にわたる大腿骨手術をした私の母は、

七十代半ばを過ぎたあたりから、次第に父の世話に頼るようになった。

三度の食事を自分でつくって食べさせる毎日。

父は我が子のように母を見守り、

母はベッドの中から父の姿を目で追った。


傍目には、優しい父と穏やかな母の姿だった。

「おかあさん、しあわせだなぁ」という人もいた。







映画では、象徴的な<鳩のシーン>がある。

最初は、飛び込んできた鳩を窓から放してやる。

終盤、今度は舞いこんできた鳩を捕まえようとする。

コートを被せるようにして。

あたかも、ベッドに横たわる妻に枕を覆い被せた時のように。


<捕まえるのは難しくはなかった。あとで放してやったが・・・・>


夫は、日記にそう書いた。

そのとき、妻はベッドで死に絶えていたはず。




満たされていたはずの夫婦を襲った介護の日々。

初めは、渾身的な夫の姿が印象的だった。

介護の様子をつぶさに追うことで、

次第に、傷んでいくふたりの姿が浮かび上がってくる。



介護される妻は、ときに嫌悪しながら抵抗もする。

看護師の不躾さに大きく傷ついたりもして。



夫婦にとって、最も大切なものはプライドなのだ。



看護師を辞めさせ、ますます翻弄されながら、

夫はなおも、独りっきりの介護に確執する。

別人になってしまった妻を

誰の目にも触れさせたくないかのように。


妻の部屋に鍵をかけ、娘にも事実を隠そうとしたり。

日々の介護を知らない娘とは、言葉が通じるはずもない。



愛の矢印は、思いどおりには刺さらない。

妻の変貌は夫の歪みでもあった。

介護は妻への支配にすり替わり、

いつのまにか、介護する側が依存しかかっていたのだ。


冒頭、<ベッドに放置された死体>で結末を知らされつつ、

闇の中で目を凝らしながら歩をすすめる。


ふかい映画だった。






ふと、顧みると、

気難しい父が優しくなったのは、

母が寝込んでからだった。


父の姿に笑みを浮かべる母に、

「わしが一番ええか〜」と破顔した。

心底いとおしそうだった。

あかちゃんになっていく母に

ともに苦労した頃の昔話をよく語った。



ふたりの娘といえば、

同性として、母の人生を哀しむだけの不出来な子供。

父の深い気持ちには、あまり関心を向けないでいた。

ときには、

心の中に、嵐が吹き荒れることもあったろうに・・・。

穏やかな大海の灘を思わせる日々だと信じていた。



父は、元気な姿だけを周囲の記憶に残し、

あっけなく逝ってしまった。

「しんどい」と訴えて病院に行き、一週間で事切れた。


母よりも二年も早かった。

5月16日は父の命日。

ときたま、泡立つ感情に涙ぐむ日もある。


気持ちに添えなかったことが、今更に、悔やまれるのだ。



こころはプリズム。

いろんな光が屈折して、手に負えないときだってある。

自分は、自分ひとりではつくれるわけでもなく、

介護を<愛>だけで、括っちゃいけない。









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コメント(8件)

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映画は見ていないけれど
考えさせられます。
自らが壊れることも<愛>なのだろうか

>介護のすがたを<愛>だけでくくっちゃいけない。
・・・ですね。


桂川の乙女
2014/05/13 20:48
桂川の乙女さん

ごめんなさい。
敢えて映画の内容に触れていないので美談映画と勘違いされたかも。
迂闊に書きたくなかったのです。

>自らが壊れることも<愛>なのだろうか

でも、さすが乙女さんです。掴んでらっしゃる。
人の欺瞞や介護のすさまじさを延々と目の当たりにしながら、
最期の結末も含め、実はまだ考えているんですよ。

七海
2014/05/14 20:15
投稿寸前で、一度書いた文章を全部消してしまいました。

1.ブログを始めた頃に勤めていた介護老人保健施設の入浴介助のときに感じたこと。
2.今の義母のこと。
3.今の実母のこと。

消したのは1のことだけど、この記事の主旨とは違うかなと思ってやめてしまいました。
2と3は、現在進行形なので、迂闊に書けないし。

結局、何も内容が無いよう。
すみません。

あ、でも趣旨と違っていても、やっぱり何を書いたか書きます。
人は、己のプライドとどう折り合いをつけたら良いのだろうということ。
地位の高かった人、お嬢様、金持ち、そういう人ほど施設に入ってから大変です。
他の人とは違うと思いたい。思われたい。
自慢話は、すればするほど、軽く見られてしまうのに。
自分のプライドと折り合いを付けるために、さらに壊れていく人もいるのかもしれない。
なんてことを書きました。

峰猫
URL
2014/05/15 13:37
峰猫さん、ありがとう。

>内容が無いよう・・・・ぷっ♪
あるでよう〜!

おんなはみんな、こころに鬼を棲わせないと・・・
これ、親しい友人がそろって口にします。
わたしの負荷を減らすひと言でもあるようで、
わが家の夫婦間に、介護の変形が見て取れるのでしょうね。

プライドかあ〜・・・確かにあるかも。
確かめないと平穏でおれないところがコンプレックスの裏返しだけどね。
ウッディ・アレンの新作のテーマがまさにそれなのよ。
「欲望という名の電車」にそっくりだけど、
ユーモアとおんなの可愛さがいいお味のよう。
はやく観たいな・・・地方でも上映されるかしら。

今日はこれから、姉のところにお泊りです。
(小さな声で・・・)ちょっと、息抜きね。あそんでこよっと。
七海
2014/05/15 15:08
こんにちわ
平均寿命が世界一と言いながら、老いに対する思いやりがないこの国
家族が担うしかないけれど
かつての大家族が多かったが
今は就職や結婚で分散傾向で担いきれない
悲観的にはなりたくないですが楽観も出来ないですね・・
923
2014/05/17 15:33
923さん、こんにちは。
緑の風がきもちのよい日曜日です。

そういえば、923さんもお母様に寄り添ってらしたか、と。
ご実家に縁側はありますか?
あの場所は心地よいですね〜・・・実感です。
過去と今と未来が混然としたふしぎな気持ちになりました。

そのうち一人称で死を語るときがやってきます。
七海
2014/05/18 13:38
こちらを訪れる直前。
PCのファンが、がーっと回転し、
なんだろうと思って稼働状況を確認すると
その折れ線グラフが山あり谷あり、ときに100%に
達していたり。
ああ、これは人の心も同じかな、と。
純な気持ちに正直に、折れ線グラフを一定に保つこと。
そうありたいけれど、わたしには自信ありません。
とうい
2014/06/01 22:59
とういさん

山あり谷あり・・・時にぷぁ〜っと毒抜きして。
いいじゃないですか、人間らしくて。
と書いたけど、折れ線のどこで接するかで、
相手はずいぶん違った印象を受けるんでしょうね。
たまに「あなたの、あの言葉が!」と言われて驚く時がありますもん。
「誰が言ったって?」の思いつつ・・・
七海
2014/06/02 20:44

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